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むすびサロン2019 オープン講座【11.6/ジェンダー対立を超えて 地方経済のゆくえを探る】レポート

2019.11.10

去る11月6日(水)、むすびサロンオープン講座が三島商工会議所TMOホールで開かれ、
夕方からの特別講座に三島市に在住・在勤する25名の方が受講しました。

講師にジャーナリストの津田大介さん、
ファシリテーターにはビジネスインサイダージャパン統括編集長の浜田敬子さんをお迎えし、
情動/情報/人情 -情の時代を生き抜くために ジェンダー対立を超えて 地方経済のゆくえを探るをテーマに
以下の内容で熱いトークセッションが開かれました。

〇ガラスの天井をもつ現代美術業界
〇地域資源を価値に変えるローカルベンチャーが台頭
〇ローカルベンチャーの成功事例・青森県の「たびすけ」
〇地域づくりが成功する3つの条件
〇保守的な考え方を変えるには
〇2拠点、3拠点生活のすすめ
〇ワーケーションがブーム
〇地方では競争が始まっている
〇よそ者を受け入れる場所は伸びる
〇変わる若者の意識
〇副業OKの会社に若者は集まる
〇五島列島のワーケーションエピソード ①キーマンは総務省からの出向者
〇五島列島のワーケーションエピソード ②内部にもいたキーマン
〇もうひとつの成功する条件、歴史的背景

〇質疑応答
①ジェンダーの問題に気づかない男性にどう接したらいい?
②地域の女性側の意識を変えるにはどう伝えたらいい?
③お母さんの意識を変えるためにできることは?
④外食業界で必要な働き方改革とは?

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〇ガラスの天井をもつ現代美術業界

-津田さんが芸術総監督を務めたあいちトリエンナーレでは、作家の性別を男女平等にしたことが話題になりました。
「女性作家はジェンダーに関するテーマを多く出展していました。目の前にそういった作品を突きつけられたときに、日常の中にあるアンコンシャスバイアスなことも含めた差別、偏見みたいなことにも気づかされます」

美術業界は女性の業界だと思っていました。美大の学生や美術館の学芸員は女性が多いですし。それがいろいろと調べてみると、アメリカ某有名な美術館では、作品の87%が男性の作品、オークションで人気がある作家100人のうち95人が男性(女性5人のうち1人は草間彌生さん)、国内外の芸術祭の作家は、男性が女性の3~5倍多く選ばれていました。すごく偏っています。美大の新入生の7~8割は女性なのに、活躍する場になるとすごい逆転現象が起きていることに気づいたんです。

-津田さんはその理由を、ある女性アーティストに聞いてみました。
その答えは「教える側、美大の問題です」。美大の教員のうち、9割は男性なのだそうです。

アーティストは作家活動をしながら先生として定期収入を得ている現状があり、先生は研究室をもって生徒に作品の制作を手伝わせます。そうなると徹夜ができて体力もある男性が選ばれる。男性が男性を優遇する流れができているんです。

-でも美術館に行くと、学芸員の3人に2人が女性、そして館長は男性。ガラスの天井が美術業界にあります。

他のエンターテインメント業界よりも、圧倒的に作り手もサポーターも観客も女性のほうが多いのに、脚光を浴びるのは男性ばかり。これはおかしいと当初は6:4だった出展作家の男女比を、きちんとテーマにあった作品であることが大前提で5:5にしたいと思ったのがはじまりです。これは日本でも世界でも前例のない試みでした。

-これが想定に反して、内部から一部反対の声があがりました。

「美術に男性も女性もないはず。アートとして価値があるかないかなんだから、男女比を同じにするのはおかしい」と。もっともらしく聞こえるんですが、ではなぜこういう芸術祭の出展者の数が一回も男性を女性が上回ることがないのかと、これは不自然ではないのかと。もし質で選ぶとして、男性のほうが女性よりも美的センスが優れているからなのかと、そんなわけないですよね。

-浜田さんも「企業もまったくそうですよね」と相槌を打ちます。

それは構造的な問題なんだから、まずはこの偏った状況を変えようと半々にしようとしたわけです。
近年、クリエイティブの業界での男女比平等は国際的には当たり前になってきました。「Me Too運動」が起きたハリウッドの映画監督の男女比は女性4%、賞をとるのは男性90%、映画会社の取締役はほとんど男性というのが現状です。そんなハリウッドも2025年を目指して、様々な男女格差を変えていこうという動きになっています。音楽の業界も男性が優遇されていますが、今「キーチェンジ」という音楽フェスの出演者を男女同数にしていこうという動きが世界中にあって、2018年にアイスランドがこの目標を達成しています。

広告の世界では、今年6月に開かれた「カンヌライオンズ」という広告の一大イベントで審査員が男女同数になりました。映画も音楽も広告もそして美術も、クリエイティブな業界はまず男女平等に取り組まなければならないというのが世界の潮流になってきています。日本は遅れをとっていますが、世界に先駆けてあいちトリエンナーレで実現できたかなと思っています。

ただ、あいちトリエンナーレの開幕前にジェンダー平等の面ばかり注目されると「女性はお情けで入れてもらったんでしょ」というような逆バイアスが働くだろうから、直前になったらこの話題は消えてほしいなと思っていたんです。

-「その議論って、企業にもありますよね。女性管理職〇%というとそれは上げ底じゃないですかという」と浜田さん。「企業も、女性自身が『女性管理職の数を決める必要ありますか』とか、ポスト管理職世代の女性が『私たちって上げ底を履かされているんじゃないでしょうか』って言うんです。こういう中にいる女性たちの信仰がすごく大きいんです」

津田さんが大きく頷きながら分かりやすい事例をお話ししてくださいました。
本来は、選ばれた男性が下駄を履いていたから選ばれたのであって、実力のある女性が選ばれてこなかったのでむしろ全体的にレベルが上がるんです。あるニューヨークのオーケストラがブラインドオーディションを開きました。それまではアンコンシャルバイアス、つまり無意識の偏見があったからなんです。選考者は『全然男性とか女性とか関係ない、偏見もない』と言いながらも、過去に選ばれたのは男性ばかり。人は無意識的に自分と似た属性の人を高く評価してしまうという習性を打開すべく、視覚に頼らないブラインドオーディションによる選考を行ったのです。カーテン越しに音だけを聴いた結果、女性ばかり選ばれて、そのオーケストラの男女比が劇的に変わりました。その後どうなったかというと、演奏力がすごく上がって、集客力が抜群に上がったそうです。おそらく他の業界でも同じことが起きていると思います。」

浜田さんが続きます。「企業は、本当はこんなに男性社員が多いのが不自然だと思わなきゃいけないのではないかと、私は思っています。『この男性は何年になったら課長にしよう』とか言うんです。それは実力があるからではないんです。男性のほうがむしろ上げ底されていたんじゃないかなと思います。」

津田さん「時々、女性が差別的に扱われていると話題になるCMや映画、ドラマが出てきます。これは過去の累積的な問題が根本にあります。経験の有無によって全然見え方が違ってしまうということ。そういう意味的なつながりを感じない人が男性には多いんです。彼らに『あなたは差別主義者だ』というとすごく怒ってしまい、そこで遮断されてしまいます。だから、今回のあいちトリエンナーレは枠と環境を変えるのが一番だと思ったんです。結果、男女を半々にしてすごく良かったし、いろんなことが変わりました。自分も変わりました。

僕が関わっているメディアに、ある委員会があります。委員の人が6名いて、男性5人、女性1人だったんです。次に誰にお願いするかという話になったときに「女性が1人は入れないといけないですよね、ジェンダー的な問題で」となったんです。これはアリバイづくりのようでおかしいと、男女3人ずつにしてもらったんです。これが大正解で、その後の会議はものすごく雰囲気が明るくなり、コミュニケーティブになりました。そして今までの会議では女性が少数であるがゆえに、ものすごく話しづらそうにしていたな、と気づけたんです。」

-「今の職場(Business Insider Japan)もAERAのときも3分の2が女性だから、男性があまり意見を言えなくなっちゃって」と苦笑する浜田さん。

津田さん「パネルディスカッションでジェンダーの話をする機会が増えたんですけど、そうすると、男性が僕だけだった時、居心地悪いな、しゃべりづらいなとも思うんです。同時に、女性は今までこの居心地の悪さをずっと抱えてきたんだなと知るんです。」

女性の立場で浜田さんが続けます。「企業でもそうだし、地方でも自治会でも女性は少数派なんです。地域のことを全部男の人がやっている。何が問題かというと、災害が起きた時、避難所で男性がすべてに関わると、女性がそこで生活しづらい、必要な物資を言いにくい、プライバシーが守られないんです。
ジェンダーというと、遥か遠くの話に感じる人が多いけれど、こういった地域で起きているんです。だから組織の中に、必ず女性を同数入れないといけないんです。
男性が悪いというよりも、単に気づかないだけなんです。女性も男性の特有の部分に気づかないのと同じです。だから多様にしておく必要があって、もっと言えばもしかしたら子どもの代表やLGBTの方とか、増えている外国人の方の代表を入れるほうがいいのかもしれません」

〇地域資源を価値に変えるローカルベンチャーが台頭

津田さん「僕は東京出身なんですが、震災後に東北へ取材に行くようになったのがきっかけで、今、地域にあるものを発見して新たな価値観をもったビジネスを作る『ローカルベンチャー』やローカルコミュニティーがすごく元気でおもしろいと気づきました。街づくりが先行していると話題の土地に足を運び取材を続けています。

社会の在り方に違和感をもった人たちが、自然やコミュニティとつながる地域資源の中から、新たなサプライチェーンを生み出す挑戦をはじめてきたんです。地域の課題だけではなく、様々な格差を解決していくのがローカルベンチャーの可能性。それがうまくビジネスとしてまわりはじめていたら、県外や海外にも輸出できる可能性があるんじゃないかなと思っています。

今地方にこそ創業の可能性は増えています。インターネットというのは場所や時間を開放してくれるのが最大のメリット。そしてツイッターには大きな告知力、発信力があります。不特定多数がつながって、現実社会でいろいろな行動を起こせる。あるいはクラウドファンディング。今までは発案から数か月~数年かかっていたものが1~2カ月あれば一気にお金が入ってきて夢が叶います。これはもう圧倒的な革命、というか可能性です。

日本中で労働者不足です。特に地方の中小企業が強く要望して、出入国管理法を改正して外国人労働者を雇っていく流れになりました。でも本来確保すべき労働力は外国人ではなくて、女性です。よく言われているのがM字曲線問題。他の国は女性の年齢別就労曲線がU字型になるんですが日本だけがM字型になる。30~40代に女性が退職すると10%くらい戻ってこない。結婚出産の後に、その大変さを男性がシェアしない、またはそういう女性を受け入れる会社の体制がないのが原因です。このMの凹んだ部分の女性の中に貴重な人材が眠っているんです。
現代美術業界でもまったく同じM字曲線問題がありました。市場が活発ではないという背景もあって、夢を捨ててしまう女性が多いようです。」

〇ローカルベンチャーの成功事例・青森県の「たびすけ」

津田さんがスライドを使って事例を紹介しました。「たびすけは、介護とツーリズムの会社です。青森の問題は、雪かき。重労働で高齢者には負担が大きく、亡くなる人がいるほどです。でも都会の人にしてみたら新鮮なアクティビティになるんです。『雪かき体験』というと旅行者は何日間も一生懸命やるわけです。そんな企画力で勝負をして成功しているベンチャーです。地域課題を解決しながらツーリズムをやっている。すごくおもしろいです。そういう地域資源はどこにでもあるんです。
他には『りんご農家体験』があります。軽トラックの運転席をオープンカーみたいにして、りんごの収穫をするんです。すべてエンターテインメントにつながっています。静岡も果物などの種類も多いし同じような事あるかもしれませんね。」

〇地域づくりが成功する3つの条件

津田さん「各地を巡る中で、地域づくりに成功している3条件が見えてきました。ひとつは中心人物に地元の若者がいること、2つめはよそ者(外部の人)がいること、3つめが重要でかつすごく難しい条件なんですが、その地域にいる長老みたいな偉い人、つまり実力者が若者の邪魔をしないこと。この3つの条件が満たせれば高い確率で地域づくりが成功する、2つだと成功の可能性がある、1つだと厳しい、0だと無理かな、というのが僕の感覚であります。」

〇保守的な考え方を変えるには

浜田さんから津田さんへの質問です。
「先日私が静岡市で講演をしたときに、意外だったんですが、静岡市の人はとても保守的なのが悩みと言われました。女性が働くのを男性が嫌がる、夫や夫の親が嫌がる、そうなると女性が働きにくくなるんだそうです。地方は税収も子どもも増やしたいので女性の雇用をつくろうとしているのに、こういう考え方を変えるのが本当に難しくて、でも一番大事なことでもある。要は妻が働くのは男の甲斐性がないということだそうです。これはどのように変えていけばいいのでしょうか?」

津田さん「静岡県の東部地域で活動するキーマンが、西へ西へと進出することで考え方が変わっていく可能性を感じます。そういう人がいると、自分を押さえつけなくても女性が働ける場所があるんだというように刺激を受けて、私もそうなりたいと思う人が増えていく。カルチャーとか慣習を変えていくにはキーマンが必要なんです。人の意識はそういう形でしか変わっていかないのではと思います。」

〇2拠点、3拠点生活のすすめ

浜田さんが今実験中のリモートワークについて紹介します。
「今、リモートワーク実験というのをやっていて、九州の五島列島でも働いてみました。東京から一番離れたところでどれだけ働けるかという実験です。現地集合だったんですが140人も応募があって、その中から20代から30代の働き盛りの50人くらいに限定してプロジェクトをやったんですけど、そこからもう3つ事業が生まれたんです。みんなずっと東京にいたいと思っているわけではない、機会があったら行ってみたい、もしかしたら完全な移住はしないかもしれない、2拠点かもしれないけれどもと思っている。今自治体は移住ではなくて、関係人口が増えることも望んでいますよね。関係人口を増やして、何か事業に関わってくれればいいとなっています。3つのうちのひとつは、今すごく社会問題になっている引きこもりの人たちを集める事業です。東京だとQOLが低く家も狭い、だから自然の豊かな五島列島に全国から引きこもりの人を集めて事業を興すんです。今、活動する場所を移すことにチャンスを感じている人はすごく多いなと実感しています。

三島は東京から新幹線に乗って1時間以内で来れるし、通勤通学もできるし、ちょっと車で行くとすぐ海がありますよね。そういう恵まれた地域であるからこそ、2拠点生活を送りやすいと思います。東京と静岡の中間ぐらいにいい物件があれば通いたいなと思う人もいるかもしれない。」

「五島列島のプロジェクトでわかった今の若者がもつ最大の悩みは、免許を持っていないこと」と浜田さん。
「五島列島では車を運転できる人が少なくて、決まった人がいつもみんなの送り迎えをしていました。ある調査によると、今20代の東京在住もしくは出身の男性4割が地方での転職を望んでいて、一番の不安は交通、足がないということだそうです。だから地方の移住推進政策としては、免許代の補助が実は一番効くのではないかと思います」

〇ワーケーションがブーム

今自治体は移住や創業支援に一生懸命です。各地でコワーキングスペースつくったり、ブームになっているワーケーションの誘致をしたりしています。ワーケーションはワークとバケーションをあわせた言葉で、朝9時から午後の3時くらいまで集中して仕事をして、そのあとはずっと海や山で遊ぶというような働き方です。

浜田さんが続きます。「私はワーケーションのプロモーション事業に関わっているんですが、大変な手間がかかるけれど、なかなか人手が足りない。自治体はこういった事業に多額のお金をかけているんですけど、必要な施策は何かと、もうちょっとちゃんと知ったほうがいいのではないかと思っています。
五島列島には公共交通機関の不足が課題となっている久賀島(ひさかじま)という小さい島があるんです。そこで車に乗りたい人と乗せたい人をマッチングするサービスを提供する「クルー」というベンチャー企業が、ライドシェアの実験をしました。規制緩和は地方で特区のようにしてやれば、いろんな問題が解決できるかもしれないですね」

津田さん「意外とビジネスのタイムラグがあるかもしれないですね。アメリカ発の配車サービス「ウーバー」が日本ではなかなか広まらないですが、何かしらこれも工夫できる可能性はあると思います。」

〇地方では競争が始まっている

津田さん「企業が街づくりを関わっている事例を思い出しました。鹿児島県の阿久根市にA-Z(エーゼット)というアマゾンの倉庫と同じくらいの超巨大なスーパーマーケットがあります。そこは年会費1,000円でお客さんの自宅まで送迎してくれる買い物バスを運行しているんです。都会に住むより全然楽なんですよ。」

ワーケーションの話と関連付ける浜田さん。
若い人は気づいているんです。東京は住みづらい、特に子育てをしづらい、待機児童もあるし、苛烈な競争があって、中学受験みんなしないといけないという大変さがわかっているから、ワーケーションのプロジェクトにたくさんの人が来たと思うんです。一方で、この前沼津で企業向けに講演したときのことです。参加された会社員の女性から『地方に移住したい若者が増えているという事実を知っているんだけれど、うちの経営者はほっといてもこれからみんな来るから何も対策をするつもりはない、と。でも何もしないと若い人は来ないですよね?』というので、『もちろん何もしないなら来ませんよ』と、言いました。つまり地方では、全国レベルでの自治体間や企業間で人材獲得の競争が始まっているんです。」

〇よそ者を受け入れる場所は伸びる

津田さん「地域づくりに協力してくれそうな外部のキーパーソンの取り合いも起きていますよね。ここにいったらおもしろそうとか、よそ者を受け入れてくれそうとか、そういう地域に人材は集まります。

僕は実感として思うところがあります。震災復興は自治体によって度合いが違い、最も成功しているのは宮城県の女川町よそ者をすごく歓迎するんです。もともとは被害を受けた人だけが入るはずだった復興商店街を、外から来てそこで起業してくれる人に優先的に場所を渡すように変えた結果、人がどんどん集まってきたんです。地方、特に東北はコミュニティの結びつきが強いがゆえによそ者はなかなか定着できないという背景があるんですが、他の地域でうまくいかなかった人が誘われて女川に来て、成功したりしています。

宮城県石巻市には、外部の人たちが作ったMORIUMIUS(モリウミアス)という複合体験施設があります。廃校を利用したすごくおしゃれな場所で、東京からたくさんの子どもや企業が訪れ、漁業や農業の体験を通じて学んでいるそうです。ぜひ皆さん、興味があればそういう場所に行ってみてください。現地で活躍する人の姿から、自分たちも何かやってみたいと刺激を受けると思います」

「よそ者を受け入れていい結果を生んだこんな事例があります」と浜田さん。
「長野県富士見町という町で、東京在住の大手電機メーカーの男性が将来2拠点生活をするためにコワーキングスペースをつくったときの話です。そこにはもともと泊まる施設がありませんでした。それが、泊まるところがないからつくろうと、地元の人がどんどんバンガローを建ててくれたんです。初めはよそ者だから敬遠されると思われそうですが、その人は東京から通うなかで、地元の人のためにパソコン教室を開いたんです。地元の人が苦手なパソコンを彼が教えられたから地域に溶け込み、そのうちに地元の人も何か一緒にやりたいと自然発生的にそこにコワーキング村みたいなのが出てきたんですね。その人は今東京の会社を辞めて、そこで新しい事業をはじめたんですよ」

〇変わる若者の意識

「若者の意識がこの20~30年でまったく変わったと思いますが、浜田さんはどう思われますか」
という津田からの質問に、浜田さんが答えます。

彼らは地方で暮らすほうが豊かだと、贅沢だと気づき始めています。五島列島にいたときにびっくりしたのは、17時、早い人だと15時くらいに仕事を終えるんですよ。普段東京だと21時~22時まで働いているから、馬鹿らしくなるんですよね、そこまで働くのが。私が感じたのは、東京で働いていることは無駄が多いとみんな気づいたということ。通勤もそうですが、以前「名もなき家事」、つまり名前がついている以外の細々したこと、例えば醤油を足すとかトイレットペーパーを替えるとか、すごく大変だけど男性が気づかないから女性の家事の負担が減らないという話題になったときに、東京で働いていると名もなき仕事が多いよねと、ウェブで発信してくれた人がいました。会社で働くと誰かと雑談すると時間がとられるとか、会議が多いとか、すごく無駄が集積していて東京で働くことはこれだけ無駄で負荷が高いということに気づいてしまったんですね。そうすると自然環境とか子育てだけの問題ではなく、生産性という意味でも、実は地方にいて集中して仕事をして、大事なときは東京に行ったりテレビ会議をしたりするほうが、業務のクオリティも上がるのではということに若者は気づいたようです。

〇副業OKの会社に若者は集まる

「一方で副業の問題があります。ある調査によると、7~8割くらいの企業が副業を認めていないそうです。柔軟な働き方にすごく可能性があると言いつつも、企業の経営者、あと行政の意識を変えるのはどうすればいいでしょうか」と津田さんは続けて浜田さんに投げかけます。

五島列島に来た時に、副業OKの会社の人と、NGで有給とってきた人の2パターンがありました。そうすると、OKの企業がいいなと思うわけです。転職しますよ。今は、みんな気づいてしまうんです。津田さんが仰ったように、今までは地域の情報しかわからなかったことが、ネットを通じて気づいてしまう。そうすると簡単に移るんです。これが今すごく危機でもあって、伝統的なことをやっている古い体質の企業からどんどん人が流出している事態に起きています。

〇五島列島のワーケーションエピソード ①キーマンは総務省からの出向者

五島列島でのワーケーションのきっかけは、ある編集者の知人が作ったすごく素敵な五島列島の写真集を見て「五島列島に行きたい」と私が言ったのが始まりなんですけど、市役所と交渉したときに、たまたま総務省からの出向者がいらしたんです。話が分かる人がいたわけです。その人が切れ者で、彼が「やりましょうよ、おもしろいじゃないですか」と、移住促進課の人を説得してくれたんです。それと、スラックというチャットサービスの会社がスポンサーについたんです。その後市役所でも会議をするのにスラックを使うようになりました。地元の人たちは乗せられた船にいるうちに、楽しくなってきます。それからはスラックが東京で開催するカンファレンスに呼ばれて、五島列島の話をしてくださいと言われたり。総務省からも「こんなにおもしろいことをやったんですよね」とワーケーションの聖地と言われれいた長野県の富士見村などに交じって五島列島も呼ばれました。ワーケーションのプロモーションをしていなかったのに、総務省のほうから声がかかったんですよ。キーマンがいると変わる好事例です。その総務省の人は霞が関では結構名の知れた有能な官僚だったのが、総務省に帰任後、驚くべきことに辞職されたんです。2年間だけ東京のベンチャーで働いたあとは長野の実家の蕎麦屋を継ぐのだそうです。「僕は五島列島に行って考え方が変わりました。気づいてしまったんです」と仰っていました。彼が戻ると絶対長野がおもしろくなりますよ。

「蕎麦屋を継ぎながら、絶対なにかやるんでしょうね。人が動いて、いろんな人を触発して状況を変えていく、それがメディアを通じて刷新されるんですよね」と津田さん。

ワーケーションの参加者にはnote(文章や写真を投稿できるウェブサービス)にレポートや感想を書いてもらったんですよ。とにかくFacebookやTwitterでどんどん発信してください、noteもどんどん書いてくださいと。それを総務省の人が見て、五島列島で何か面白いことが起きているらしいぞと声がかかったんです。

「外から人がたくさん来て魅力を発信することで、地域の人は初めてこんなことが資源になるんだと気づくんですよね」

〇五島列島のワーケーション事例エピソード ②内部にもいたキーマン

「子どもを連れて参加していいですか」と聞くワーキングマザーが多かったんです。それを地元の保育園や小学校が受け入れてくれたんです。ものすごくありがたかったです。小学校で受け入れるのは、教科書から何から違うので1週間だけと言っても大変なんです。だけど小学校の校長先生がやっぱり都会の子が交じったほうがおもしろいからとすごくオープンだったんですよ。外者だけではなく、内側にもキーマンがいるのがすごく重要なんです。小学校の先生や保育士さんが「いいですよ、来てください」と言って迎えてくれたことで、みんな五島列島が大好きになりました。だから夏休みになったらまた行きたいと言っています。みんなでシェアすれば1年間2万円くらいで借りられる空き家がたくさんあるからみんなで借りて居住拠点にして、夏になったら子連れで五島列島に行こうという計画があるんですよ。

〇もうひとつの成功する条件、歴史的背景

-先ほど地域づくりが成功する3つの条件(地元・よそ者・地元の応援者)をお話ししましたが、実はもう一つあって「歴史的な背景」これが重要なんです。地方の地域づくりで最初に注目されたのが島根の海士町なんですが、なぜ海士町は外の人ばかり受け入れるのかと町の人に聞くと「うちは後鳥羽上皇が流されてきたところなので」と言うんですよ。外の人を受け入れるのが文化、というかマインドになっているんですよ。他にはというと、徳島県の神山町はサテライトオフィスで有名ですし、隣の上勝町でもおばあちゃんたちの葉っぱビジネスが盛況です。なぜか聞くと「我々は外の人を受け入れるのは当たり前です。お遍路がありますから」と。お遍路で外の人を受け入れるマインドが当たり前のようにあるんです。まちづくりの成功で有名な長野県小布施町も同じく、交通の要所で商業の中心地です。実は歴史とか文化があると、当たり前のように外の人を受け入れて発展をすると。女川も商人の町なんですよね。

そういう意味で、三島は開けているイメージがありますね、と津田さん(実は今回初の三島訪問だったそうです!)が参加者とクロストーク。
《三島は昔から小田原から箱根を越えて来ると宿泊する宿場町でした。また、東海道、甲州街道、下田街道が交差する交通の要所という面もあります。(三島市商工観光課課長談)》

〇質疑応答
参加者からの質問に答えていただくお時間をいただきました。

①ジェンダーの問題に気づかない男性にどう接したらいい?

「男性が多い会社で、女性の失敗をあざ笑うような場面に出くわすことが多く、対応に困ってしまいます。
わかっていない男性に対してどんな態度をとるのがいいのでしょうか」

私は新聞社での記者時代90年代末に、過去にハラスメントを受けたときに、少数派だったので、男性と同化してしまったんです。ハラスメントを受けると最初は嫌なんですが、もう嫌ですっていったら仕事がまわってこなくなるんではないかとすごく恐怖でした。まぁ触られても減るものでもないしと思って、そこで本能的に生き残ろうとするんです。そして男性化していく。それが結果的に30年後に財務省の事務次官の女性記者へのセクハラを許してしまうような風土に繋がってしまったのではないかという反省が今すごくあるんです。

わかってほしい人に直接言うと軋轢があると思うので、人事の人に「こういうカルチャーがある会社だと女性が来にくいと思います」と言って研修をやってもらうのはどうでしょうか。こんなに人口が減っている中で人口の半分である女性が入社しないのはリスクなんです。どんな会社だって優秀な人が来なければ会社は続かない。そういう会社は若手の男性も来ません。ものがわかる上司や人事の人にまず「うちの会社の採用は今増えていますか?ほしい人材がとれていますか?」と理屈で説明して、研修をしましょう。(浜田さん)

深沢真紀さんという編集者の方から聞いた話です。嫌味やセクハラを言われたときに、ヒステリックにならずに伝えられる万能の返し方は「今、なんて言いました?」です。言われたほうは「えっ」とひるみますよね。3回繰り返し言えば、相手は黙るそうです。怒るというより、聞こえないふりをする。実用的だと思います。(津田さん)

②女性側の意識を変えるにはどう伝えたらいい?

「自治会でもPTAでも、普通の役員は女性なのにトップは男性ばかり。女性側からの「トップは男性」という考え方を変えてもらうには、彼女たちにどう投げかけていけばいいのでしょうか」

今、マンションの管理組合でのトラブルは全国各地で問題になっているそうです。女性が組合の理事をやっているときはコミュニケーティブですごく平和らしいんです。ところが男性が定年になって理事になると、権力闘争になるそうです。あいつは課長だった俺は部長だったとマウンティングになったりして、ギスギスする。だから管理組合のトップやコミュニティのトップは、現場の叩き上げにしましょうという空気を作るのはどうでしょうか。現状をよく理解していない人がトップになると混乱します、現場を作ってきた人がトップになるのが一番いいですよ、と話していけばいいかと思います。(津田さん)

2つ問題があります。ひとつは教育の問題。高校生くらいだと女の子のリーダーが多い、生徒会長とかも女の子のほうが多いのに、それが大学生になるとなぜかゼミやサークルのリーダーを男性に譲るわけですよ、女の子が目立つことを賞賛する文化をこれからつくっていかなくてはいけないと思います。
もうひとつは、フォローの問題。みんな、トップの人はすごくたいへんそうだとみんな思っているんです。だから候補の人がいるならば「まわりがサポートするよ、あなたならできるから」と言ってフォローしてあげましょう。環境を整えて必ず助けてあげれば、トップになる女性は増えると思います。(浜田さん)

③お母さんの意識を変えるためにできることは?

「子どもの頃から『男性の中で肩ひじを張って頑張るのはおかしい、そうしないほうが女の子らしい」「一歩引いている女の子のほうがかわいらしくてモテる、出ちゃいけない」と信じ込んできたお母さんたちが周りにいます。このお母さんたちに育てられる子はどう育つのか心配になることも。そんな彼女たちの意識を変えるためにできることはありますか』

今、専業主婦願望のある20代の女性が多いのですが、これは母親の呪縛によるものです。ロールモデルが母親なんです。方や、男性のほうが、実質賃金が上がっていないから共働きにしたい、育休をとりたいと望んでいるのに、女性のほうは一般職ぐらいで、長く細く働きたいという子が一番多いですね。でもなんだったら、稼ぎのいい夫と結婚して専業主婦になりたいと。
今は仲良し親子が多いので、子どもたちには親の意見を聞くなとすごく言うんです。親が持つ良い企業に対する価値観と今とは時価総額も全然違うから、とにかく親から一回自立しろと。若い学生にはいろんな大人を見なさいというんです。今、クライシスは離婚です。熟年離婚。貧困専業主婦問題が出てきています。だからお母さんたちに「経済的に自立しましょう」と言っています。夫が早く死ぬかもしれないし離婚するかもしれない、だから子どものためにも働いている姿を見せたほうがいいですよ、とお母さんたちに働きかけています。(浜田さん)

人を変えるってすごく難しいですよね。だから人を変えるよりも、自分が変わる、環境を変えるほうが早いと思います。2拠点生活のようなことが大事だと思うんですよね。「このお母さんの子どもは大丈夫かな」と思うような子をモリウミアスに連れていくのはどうでしょうか。相対化して見せてあげるというような、いろんなロールモデルがあるんだということをわからせた上で、選ばせてあげることが大事だなと思います。
母娘の呪縛問題ですが、結局距離をとるしかないと思います。物理的に距離が遠くなれば、おそらく適切な関係になりうるんじゃないでしょうか。いい意味で諦めてもらえるかなと思います。(津田さん)

④外食業界で必要な働き方改革とは?

「長時間労働で低賃金、夜は遅いと言われている外食業界の経営者です。雇っている従業員の8割は男性です。
このような業界ではどのような働き方改革が必要でしょうか」

普段大学生と話をしていると、彼らは本当に仕事を通じて成長したがっていると思います。バイトでもそうだと思います。最近の若い人のほうが真剣に働き方とか生き方、QOLを考えるようになっているようです。
それは給料を上げることも大事なんですが、それ以上にやりがいとか何かを任せてみるとか、働きやすさ、これは職場の人間関係ですよね。このうち3つまたは2つをどう満たせるかを意識すると、若い子はバイトであってもしっかり働ける気がします。(津田さん)

私のところで記事にした神奈川県のある旅館があります。経営が傾きかけて現場も疲弊していたときに、まず週休2日にしたんです。そうすると、従業員の勤務が楽になり休みもちゃんととれるようになって、料理の質のほうにお金をかけられるようになり、集中してそこに原価を投資しました。それから料理が評判になってお客様が増えて、従業員の給料も上がったというすごくいい流れで改善したんです。
表参道のフレンチのレストランも同じです。レストランは、休むと売上が減ってお客さんが来なくなるのではと恐怖になるのが一般的です。だけど休むことで従業員のQOLを上げて、その人たちがすごく一生懸命サービスをする、ここすごくサービスがいいねとお客さんが増えて、売上が上がって、原価率を上げて、いい素材を使ってよりおいしい料理を提供するようになるんです。このお店も週休2日になってから売り上げは上がっています。だから「こうでなければならない」という固定観念をやめて、一回考えてみるのもいいかもしれないです。(浜田さん)

昔と違うのが、インターネットがあることで、すごく目立つこと魅力があることに対して、誰かがひとりアンバサダーみたいになると、それが勝手に口コミで広まっていくんですよね。昔口コミが広がってそれがブームになるまでの時間と比べると多分10~20倍くらい違ってきていると思うので、そういうことを戦略的にも仕掛けられるようになってきていると思います。
多分働いている人の職場の雰囲気がすごく重要なんだと思いますね。

と、まだまだ聞きたい!お二人の示唆に富んだ、メモが追い付かないくらい熱いトークセッションでしたが、ここで一旦の閉幕。
興奮の冷めやらぬ会場で、受講者の名刺交換会が開かれました。
受講者がセミナーの感想や相談事などを熱心に伝えると、真剣な面持ちで丁寧に応えてくださっていました。
ご多忙ななか「むすびサロン」のために三島に駆けつけてくださった津田さん、浜田さん。本当にありがとうございました!ご参加された方々それぞれの心に灯った言葉がいくつもあったように感じました。
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受講した方からいただいた感想です。(一部)
・刺激を受けた。考え方、話がステキだった。
・「こうでなくてはいけない」という考えはやめる!!というコトバや今の自分の不安が少し解消されました。
・社会、経済、ジェンダー、文化、歴史、統計…いろんな角度から話を聞くことができ、非常に楽しかったです!
・すごく良かったです!!…ゆっくりブログなどでアウトプットしていきます。
・地方での創業ポイントを知ることができて良かったです。
・個人経営の為、地域や社会全体にあまり関係がないと思っていたのですが、自分の役割が外にある!!と気づけました。
・男女共同参画の視点のお話に仕事や私生活に役立てられると思いました。貴重な機会を頂きありがとうございました。
・自分の知らなかった新たな視点からの講座で視野を広げることができました。津田さんと浜田さんの軽快なトークに聞き入っていました。
・女性の比率が上がると音楽や芸術、仕事の質が上がるという言葉に勇気をもらいました。津田さんと浜田さんの情報量と経験値に刺激を受けました。
・地元に固執せず、いろんな場所へ進出し交わる大切さ/「用がないけど近くまで来たので寄っちゃいました」というプラットホームになる/「こうでなければならない」をやめる=古い会社こそ!
・私も一営業マンとして男性に囲まれた環境で働いています。「女性だから」という言葉はやはりつきものなので、今日の講座を聞いて今置かれた環境を自分がどうなりたいか、どうしたいかをしっかり考えてみようと思いました。
・地方にもキーマンがいることで広がっていく、というのが印象に残りました。仕事もプライベートもがんばろう、と思えました。たくさんのパワーワードと丁寧な質問への回答をありがとうございました。
・ジェンダー問題は特別、特殊なケースで起きているわけではなく日常、普通にあるものだと改めて深く感じた。気づかなかった事がいっぱいあった。解決できる方法は色々あるのだと思った。大変興味深い話が聞けて嬉しかったです。これから地方が面白いかもと思えるポイントがたくさんありました。高齢化・大都会激増などとても面白い情報でした。
・東京に移住したいと考えているが、「東京で働くことはムダが多い」という言葉に考えさせられました。30歳ですが、東京は 1人でも動ける範囲で情報が取りやすいし、「働き方」について多様性を持たせようと考える企業が地方よりも多い印象がありました。お二人とも「人生の幸せ」について語られているのだと感じました。深いお話をありがとうございました。